TVアニメ『MFゴースト』の"セリフ回しの良さ"

2023年冬クールに放送されたTVアニメ『MFゴースト』は、主人公カナタがトヨタ86GTという周りに比べて圧倒的に非力な車を用いてMFGで活躍する物語の痛快無比さ、ユーロビートを効果的に使ったレースシーンの演出のかっこよさ、そして一つのレースを何話も使って丁寧に描きまるでレースを実際に観戦しているかのような気分になれる構成が魅力のアニメでした。
しかし僕はこのアニメの魅力として"セリフ回しの良さ"を挙げたいと思っています。この"セリフ回し"というのは恐らく曖昧な概念で、使う人によってどういうことを指すのかが変わってしまうと思います。そこでまず最初に、この記事で僕が主張したい『MFゴースト』の"セリフ回しの良さ"とはどのようなことなのかを、以下のように分解して示しておきます。

a 単純にセリフの言葉選びのセンスが優れている
b 片言、カタカナ混じりの日本語が面白い
c 素人には意味の分からない専門用語が聞いてて楽しい
d (a~cを使った)会話が聞いていて心地いい
e (a~cを使った)実況・解説が臨場感があっていい
f  セリフからそのキャラクターの特徴や性格がにじみ出る

見れば分かるようにこれらは結局のところあくまで僕の主観の話です。しかし、beはある程度賛同してくれる方もいるのではないかと思います。また、abcが含まれているとも言えますし、これらは完全に独立しているものではなく相互に関連があるものです。

あとは実例をいくつか挙げて解説をしていこうと思っているのですが、その前に僕が原作漫画に目を通したときに考えたことを書こうと思います。話の本筋とは少し外れるので飛ばしてもらっても構いません。ちなみに原作はアニメ化範囲を含んだ12巻まで読みました。(手元にあるわけではないので間違ったことを書いていたらすみません)


原作を読んでいてまず気がついたことは、アニメの中のセリフはほぼ全て原作そのままだということでした。逆に、原作の中のセリフも地の文的なものを除いてほぼ全てアニメに出てきていました。だから、上で言うところのaというのは原作から来ている良さということが分かりました。
しかし、アニメを見ていてこれは特に印象に残るセリフだ、と感じたものが原作では小さく(他の文字と違って手書きだったりもした)書かれているだけということもあったり、読んでいるだけでは素通りしてしまいそうになるということがありました。僕の漫画の読み方が下手くそなのかもしれないということは置いといて、アニメを見ているのとはまた違った体験になっていました。
何が言いたいのかというと、僕がアニメを見ていて感じた"セリフ回しの良さ"というのは原作由来である要素が確かにあってその骨格を成してますが、実はアニメになり声が吹き込まれたことで得られたという部分もかなり大きく、アニメならではの魅力と見ることもできるのではないかということです。また、だから僕がこうして"セリフ回しが良い"ということを主張して、分析しようとしているのは意味があることだと思っています。

そしてこれはかなり脱線してしまうのですが、原作を読んでいてさらに気がついたこととして、実況の田中さんと解説の小柏さんの姿が原作だと全く描かれていないことがありました。またリプレイやたまに出てくる車と軌道のシュミレーションみたいな映像も、原作には見られなかったものです。
漫画とアニメは違うということで、漫画だとコースや車を背景に(セリフの文量の多い)実況や解説をすることが出来るというか、その方がテンポなどを考えると良いみたいな話だと思いますが、アニメで原作にはなかった描写がされることでこの作品の場合レース中継を見ているような気分がより増しているように感じられます。またMFGは無観客でネット配信で行われている大会なので、このことについては作中世界への没入と捉えることも出来るのかなぁと思っています。だから、TVアニメ『MFゴースト』というのは純粋に足し算で魅力が追加されて、作品への没入感も高まった非常に良いアニメ化だったと思います。
そして、これは僕がアニメを見ているときに感じたことなのですが、「このアニメってセリフだけで物語が構築されていないか?」という考えがしばしば浮かんできていました。原作を読むことによって、映像の部分にはアニメで追加された部分も多く、本来は(実況・解説の)セリフで説明されていたということを知るようになると、この考えはある程度妥当だったのではないかと思うようになりました。ここで記事の本筋に戻ることを言うと、やはり"セリフ"がこの作品の大黒柱であるように僕には感じられるということです。

なお、原作と比べてアニメを高く評価する、みたいなことばかり書いているようにも見えてしまいますが『MFゴースト』は原作漫画もめちゃくちゃ面白いです。月並みな表現ですが漫画でしか出来ない表現や魅力はもちろんありますし、やはり当然ですがお話が面白いのは原作が面白いからです。




それではここから実際に作中のセリフを挙げていきたいと思います。
原作を一応読みましたがセリフの表記(ふり仮名など)は原作に倣うつもりはなくて、僕がアニメを見て感じたままになるように書き起こしていきます。

※ Turn〇〇の時間はdアニメストアの再生時間に拠ります。動画内というのは貼り付けた動画での再生時間です。


ちなみに第一話が空港から始まるのは『音楽少女』と一緒

  • 「それにしても日本の住所って分かりにくい。So badだ」

Turn01 2:25~
a(言葉選びのセンスが~)、b(片言、カタカナ混じりの~)による。突如として混ざる英語だが、正直こっちも真似したくなるような親和性をみせている。


  • 「え~と……、アーユーカナタリヴィントン?」「緒方さん…ですね。はじめまして、カナタです。」

Turn01 6:18~
abd(会話が~)、f(キャラクターの~)による。お互いに相手の言語を話してすれ違う、というのは鉄板ネタの一つだが声の調子も相俟って緒方とカナタの人柄の良さが出ている。

  • 「ワァオ、good。coolです」
  • 「No problem.」

Turn01 7:24~
abfによる。緒方に86を見せてもらうシーンでの発言。興奮すると思わず英語が出るというの可愛げがあるし、「大丈夫」などではなく「No problem.」なのはかっこいい。


  • 「レンは、どうしてそんなに親切なんですか。どう言って感謝の気持ちを伝えていいのか、僕には分からないです。西園寺夫妻もレンも優しすぎて、感謝することばかりです。日本人て、すごいです。」

Turn01 10:55~
abdfによる。文字にするとそこまで違和感がないが、アニメではけっこう片言の日本語に聞こえる。でも、"親切"を丁寧に発音しようとしていたり、また使っている単語も少し硬すぎるぐらい礼儀正しくて、カナタの実直な人柄が伝わってくる。


  • 「Don't worry、アイバ先輩。コースなら頭の中にmovieがあります。」

Trun02 11:08~
abdによる。頭の中にmovieがある、これは嘘ではないことが終盤分かったし、他の言い方って存在するか?と思えるほどちょうどいい言葉選びだと思う。


  • 「急坂を下りながらのフルブレーキングからの右の直角ターン!宮ノ下交差点を鮮やかにクリアしていきます」

Turn02 20:13~、動画内 0:07~
ace(実況・解説が~)による。早口言葉のような、捲し立てる実況がとても気持ちいい。

  • 「言葉を失います。わたくしの貧困なボキャブラリーでは、86号車のパフォーマンスに追いついていけません」

Turn02 20:36~、動画内 0:31~
ace、それにfも。「言葉を失う」と言いつつもそれが最大級の賛辞となっていて、日本語って面白いなと思う。謙虚さがにじみ出てるのもいい。


  • 「決勝進出ラインの15位を守れるか、ここからフルスロットル!最高時速180キロの高速ドローンがジリジリと離れる」
  • 「車速の伸びが鈍ります、目に見えない後続車たちがジリジリと迫る…!」

Trun03 9:01~、動画内 0:00~
aeによる。この部分はユーロビートが流れ始め、映像の迫力もあるのだけれど、でもどのくらい速くて、どのくらい大事なシーンなのかは実況の勢いによって理解することが出来る。また、"ジリジリ"を繰り返し用いているのも面白い。

  • 「やばいよぉ、六速が伸びない、一つ下がった…!がんばれカナタ、踏ん張ってくれ86…!」
  • 「カナタが命がけのドライビングで稼いだマージンが、俺の車にパワーがないせいでどんどん奪われていく…!たまんねぇぜこんなの…ごめんなぁカナタ…!」

Turn03 9:42~、動画内 0:43~
acfによる。心の底からの心配と焦りが伝わってきて、緒方さんのことが思わず好きになってしまうセリフ。臨場感が伝わってくるとかそういう以前に、緒方さんが誠実さがこれでもかと伝わってきて(ネガティブな内容なのに)聞いていて本当に気持ちがいい。また、この回は序盤からずっとマージンの話をしていて、それがちゃんと繋がっているというのもしっかりしているなと思う。



すみません、本当はもっともっと紹介したいセリフがあったのですが、記事が想定よりかなり長くなっているのと、あと作業がそれなりに大変なのでここまでにします。
ここまででも『MFゴースト』の"セリフ回しの良さ"が伝わっていたら嬉しいです。

最後に、prime videoで(あとleminoでも)配信されている『MFゴースト BATTLE DIGEST』を紹介したいと思います。これはアニメのレースシーンを中心に再編集された映像で、ユーロビートもアニメの中では使いきれなかった尺の分を使用していたりしています。"セリフ"を注視しているこの記事の趣旨的にはむしろここで使われていない映像こそ見て欲しかったりするのですが、やっぱり『MFゴースト』と言えばレースシーンであることは確かで、まだこのアニメを見ていない方にもおすすめできます。2ndシーズンの放送が2024年、つまり今年に予定されているのでこの機会にぜひ予習、復習をしてみてはいかがでしょうか。

Amazon.co.jp: MFゴースト BATTLE DIGESTを観る | Prime Video



以上です、ここまで読んでくださりありがとうございました。




番外編

  • 「MFゴースト」

Turn07 13:21~
CM明け(Bパ入り)。緒方っちの「MFゴースト」はこの回だけ。


  • 「パワーが欲しい、俺達には、パワーが必要なんだ…!」

Turn07 18:45~
𝓦𝓮 𝓷𝓮𝓮𝓭 𝓶𝓸𝓻𝓮 𝓹𝓸𝔀𝓮𝓻...